「マイスリーが認知症を招く」という論調の記事に対して解説します

  • 2025.03.05

みなさん、こんにちは。
東大阪市・鴻池新田の心療内科、「心のクリニック三木医院」の院長、三木です。

さて、先日ネット記事(ダイヤモンド・オンラインからYahooニュースへの転用記事)で、『脳に“ゴミ”を溜めて認知症を招く「恐るべき睡眠薬」とは?医療・製薬業界が激震』という刺激的なタイトルのものが出ていました。

これに対して、著名な医師がYoutube上で発言したりし、当院の通院患者さんからも「今飲んでいる薬は大丈夫なのか?」といった不安の声が複数あったので、客観的情報をもとに解説しようと思います。

まず、この記事では「ゾルピデム(先発薬マイスリー)」が「脳のゴミ排出システムを妨げる」から、認知症を招く、といった論調が展開されています。
ただ、この記事(とその関連インタビュー記事)を詳しく読むと、「脳内物質のノルアドレナリンが、そのゴミ排出システムを持っており、この薬がノルアドレナリンを抑制するから、ゴミの排出が減っている」という流れになっています。

これをもって、「マイスリーを飲むと認知症になる!」と考えるのは早合点と言わざるを得ません。

この記事内でも研究者が述べている事ですが、「マイスリーと“同系統の薬”は、ノルアドレナリンを抑制する」のです。
ここでいう「同系統の薬」とは、いわゆる「ベンゾジアゼピン系の薬」です。
この中には、抗不安薬「エチゾラム(先発薬デパス)」や「ロラゼパム(先発薬ワイパックス)」、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬「エスゾピクロン(先発薬ルネスタ)」も含まれます。

また、この記事内では言及しておりませんが、近年ベンゾジアゼピン系睡眠薬にとって代わろうとしている「オレキシン受容体阻害薬」も、薬理的にはノルアドレナリンを抑制する機序を持っております。
下図は、「オレキシンがノルアドレナリン・セロトニン・ドパミンを活性化させる」という図であり、逆に言えば「オレキシン受容体阻害薬はノルアドレナリン・セロトニン・ドパミンを抑制させる」という事です。

「視床下部オレキシンの機能」 第124回 日本医学会シンポジウム『肥満の科学』 2003

このため、著名な医師がYoutube上で「今はデエビゴを飲んでる」と言うから「オレキシン受容体阻害薬は大丈夫だ」と考えるのも早合点であり、この記事の論調で言えばオレキシン受容体阻害薬もアウト、という事になります。

では、ベンゾ系もオレキシン系も、飲んではいけないのでしょうか。

ここで、実際にベンゾジアゼピン系薬を飲んでいる人と飲んでいない人で、認知症になる確率に差があるのかを調べた研究をお示しします。結論から言えば、「差はなかった」、です。

これは、オランダの成人5400人以上を平均11年間追跡した結果、ベンゾジアゼピン系薬の使用により、使用しない場合と比べて認知症のリスクは増加していなかった、とする研究です。2024年に発表された論文なので、今でも通用する内容だと思います。

さて、先の「ゾルピデムが脳のゴミ排出システムを減らす」という研究は、実際はマウス6匹に対してゾルピデムを過量服薬させた結果そういうデータが出た、というものにすぎず、実臨床上(リアルワールド)の結果を反映するものではありません。

ただ、ベンゾジアゼピン系薬が依存や耐性、せん妄のリスクとなる事は事実であり、睡眠薬の見直しをする必要のある患者さんは多数いらっしゃいます。

当院ではより安全性の高い睡眠薬や、睡眠薬代わりの向精神薬・漢方薬などへの薬剤調整も承っております。
初診予約枠が空いていれば診察可能ですので、診療時間内にお電話でご確認ください。

それでは皆さん、健やかに。

PAGE TOP