新型コロナ罹患後の精神疾患について
- 2021.06.26
皆さん、こんにちは。鴻池新田の心療内科「心のクリニック三木医院」の院長、三木です。
医療者向け情報サイト『CareNet』で、新型コロナウイルス罹患後にどれだけの患者が精神・神経疾患を患っているかを研究した文献を紹介していましたので、以下に紹介します(The Lancet Psychiatry/英文)。
https://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(21)00084-5/fulltext
これによると、新型コロナウイルスに罹患後、全体の34%(およそ3人に1人)が何らかの精神・神経疾患に罹患していたというのです。これを見て、CareNetの記事タイトルは「Covid-19発症後、3割が精神・神経症状発症」となっており、他の一般ニュースサイト(Yaho〇など)でも同様に「コロナ後遺症で精神疾患の可能性」などと書かれています。
では、原文を見てみましょう。
よくよく見ると、まずその34%のうち、新規に精神・神経疾患に罹患したのは4割弱(全体の約13%、およそ7~8人に1人)だった(逆に言えば、“新型コロナ感染後の精神・神経疾患患者”のうち6割強は、元々その精神・神経疾患を持っていた)ということ、また、集中治療室に入院していた重症患者だけで見ると、その罹患後46%が何らかの精神・神経疾患を(元々あるいは新規に)持っており、新規に精神疾患に罹患したのは26%(およそ4人に1人)、ということです。
また、その精神・神経疾患の内訳をみると、一番多いのが不安障害(不安症≒神経症)で、新規発症は約7%。次に気分障害(うつ病+躁うつ病)で、新規発症は約4%。同様に列記すると不眠症が2.5%、精神病性障害(幻覚妄想)が0.4%、認知症が0.7%、脳出血が0.3%、脳梗塞が0.8%となっております。ただ、集中治療室に入院していた患者は軒並みその比率が高く(原文参照)、認知症に至っては約5%となっており、おそらく“せん妄”の要素が入ってその診断が下っているものと推測されます。
また、新型コロナウイルス罹患後の方が、インフルエンザや他の呼吸器感染症罹患後よりも、精神・神経疾患罹患のほぼ全てにおいて、危険性(ハザード比)が高くなっています。
まとめると、以下のようになります。
・新型コロナウイルスに罹患後、元々はなかった精神・神経疾患を患った患者は、全体の13%。ただ集中治療室で治療したような重症患者だけで見ると、そのパーセンテージは倍(26%)になる。
・罹患後発症の精神・神経疾患で一番多いのは不安障害で、約7%。次に気分障害や不眠症が続く。
・インフルエンザや他の呼吸器感染症の罹患後と比べると、新型コロナウイルス罹患後のほうが精神・神経疾患になる危険性は高くなっている。
といったところでしょうか。そもそもこの文献は「電子カルテだけでチェックした、後ろ向きコホート研究」であり、エビデンスレベル(信憑性)は低いものです。
決して、「新型コロナ感染後に約3割が精神疾患になる」わけではない、と思いますので、どうか皆さん、タイトルだけに惑わされず(できれば原文を読み)、中立的立場で情報収集してもらえると幸いです。
それでは今日も一日、ワクチン接種した人もまだの人も、感染予防に努めていきましょう。