エーザイのアルツハイマー型認知症用の新薬について

  • 2021.06.10

皆さん、こんにちは。鴻池新田の心療内科、「心のクリニック三木医院」の院長、三木です。

先日(2021年6月7日)、アメリカで、エーザイが米国企業と共同開発したアルツハイマー型認知症用の新薬が、「条件付き」で迅速承認されましたね。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210608/k10013072991000.html

この薬は、アルツハイマーの原因物質を除去する「根本的な治療」として注目されています。

逆に言えばこれまでの「抗認知症薬」は、いずれも根本的な治療薬ではありませんでした。神経の伝達物質が減っている分を増やしたり(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)、異常な神経活動を抑えたり(メマンチン)するものの、“神経がダメージを受ける原因”自体は解決させないため、認知症の進行は止められないのです。

今回「条件付き」で承認された新薬は、その“神経がダメージを受ける原因”自体を取り除くという、これまでにない機序(メカニズム)を持つものです。

これを聞いて、皆さんは「これで認知症は治る病気になった!」と思うでしょうか。

いやいや、ちょっと待って下さい。先ほどからこの新薬、「条件付きで」承認されているとお伝えしていたはずです。さて、それはどんな条件かというと、「臨床試験(実際の患者を使った研究)で結果を出すこと」であり、その結果が思わしくなければ、今回の承認は撤回される事になっています。

そう、この薬は、未だ「ちゃんとした結果が出てない薬」なのです。これまで2度、大規模な臨床試験(第Ⅲ相試験)が行われましたが、片方は「有効」、もう片方は「無効」の判定が下っています。「1勝1敗」の薬が、今回特例承認されたんですね。

“神経がダメージを受ける原因”を除去するメカニズムは、確かに正しく脳内で発揮されるのですが、それで実際に認知機能低下が防げるかどうかはまた別問題なのです。

かつて同様の機序を持つアルツハイマー用の「ワクチン」が開発され、治験を受けた患者たちの脳からは“神経がダメージを受ける原因”は除去されましたが、6年後の認知機能はそれを投与されなかった患者たちと比べて差はありませんでした。さらに、高頻度に脳炎が起こり、やむなく治験は中止となりました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/33/3/33_415/_pdf/-char/ja

今回の新薬は抗体そのものを投与するため、上記ワクチンのような脳炎は起こりにくいものの、脳浮腫を思わせる頭部画像異常(ARIA)が約4割に起こり、実際の症状としても頭痛や錯乱が起こるようなので、やはり脳炎リスクはあるのではないかと思われます。

安心して「根本治療薬」が使えるようになるのは、まだ先のようですね。

それでは皆さん、今日も一日、感染予防に努めてお過ごしください。

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